Ando Weekly 2022.1.16
政府では、人生100年時代を迎えライフスタイルが多様となる中、お年寄りだけではなく、子どもたち、子育て・現役世代の安心を支えていくため、働き方の変化を中心に据えながら、全世代型社会保障を検討しています。
先週は、2019年9月20日から2020年12月14日まで行われた全世代型社会保障検討会議における議論と成果について解説しました。
今週は、岸田内閣の下でスタートした全世代型社会保障構築会議をご紹介いたします。
2021年11月9日、第1回全世代型社会保障構築会議が開催されました。会議の趣旨は「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築する観点から、社会保障全般の総合的な検討を行う」とされています。
第1回会議では、「今後の全世代型社会保障改革等」をテーマに、出席者から意見が出されました。各構成員の考え方が表れているので、簡単にまとめてみたいと思います。
●清家篤 日本私立学校振興・共済事業団理事長/慶應義塾学事顧問
一つには、勤労者皆保険・・すなわち厚生年金の適用拡大・・働く人たち全てに社会保障制度を支えてもらい・・恩恵を受けられるようにする・・
もう一つは、支え手となる働く人たちそのものをもっと増やす・・特に女性や高齢者の就労を促進するような社会保障制度とする・・
●増田寬也 東京大学公共政策大学院客員教授
地域医療構想やかかりつけ医の制度的な推進・・都道府県の役割発揮の後押しが必要・・医療保険制度も見直すべき・・
年金につきましては、被用者保険の適用拡大、つまり勤労者皆保険の実現
分配について・・成長する医療・福祉産業においてこそ・・非営利法人における賃上げも重要・・社会福祉法人にある充実財産は4000億円・・保育士や介護職員の処遇改善に有効活用・・
●武田洋子 三菱総合研究所シンクタンク部門副部門長(兼)政策・経済センター長
今後の日本社会の不安の1位は、10年連続で社会保障による財政悪化・・
日本の医療・福祉分野の労働分配率は、他国に比べ低く、改善が求められ・・保育や介護、障害を含めた医療・福祉従事者の待遇が改善されない・・既存の枠組みや予算配分の見直しも検討・・
●秋田喜代美 学習院大学文学部教授
子供たちが良質な保育や教育を受ける・・子供に関わる全ての大人たちが・・安心して働き続けられることがとても重要・・
子ども・子育て支援新制度園だけではなく・・保育士・幼稚園教諭・保育教諭・・児童福祉施設や学校の教諭、スクールソーシャルワーカー等の・・専門性を発揮できる体制・・そのための処遇改善が極めて重要・・
●落合陽一 メディアアーティスト
人口減少社会を人口収れん社会と言い換えて、三つの実験場・・
一つは、サプライチェーンを短くする・・地産地消で過ごすための社会保障や労働の形とは・・
もう一つは、デジタルで定在する遊牧民のようにエネルギー負荷を減らす・・
三つ目は、ライフスタイルをどうやって大切にしていくか・・
●笠木映里 東京大学大学院法学政治学研究科教授
多様な働き方やライフスタイルに中立的な社会保障というのは重要な視点・・
将来に向けて社会保障がどういった現代的な価値や理念を体現して、将来世代に提案していけるのか・・
●香取照幸 上智大学総合人間科学部教授/一般社団法人未来研究所臥龍代表理事
一つは、社会保障の改革の問題は経済、財政、社会保障を一体で考える・・
もう一つは・・社会保障の問題は超党派で考えるという視点が必要・・
●菊池馨実 早稲田大学法学学術院教授
年金、医療、障害福祉、生活保護・・制度横断的に議論する視点・・
介護職の処遇改善の必要性について強調・・
医療分野とは別に、介護・福祉分野における専門職性と経済的評価との関係づけをどう考えるか・・
●熊谷亮丸 株式会社大和総研副理事長兼専務取締役リサーチ本部長
負担能力のある高齢者は支え手に回っていただき、現役世代の負担増を抑える、そして、その財源の一部を使用して少子化対策を行う・・
●権丈善一 慶應義塾大学商学部教授
かかりつけ医の制度的普及策・・国保の都道府県化の徹底、地域医療構想における都道府県の責務と権限の明確化・強化をはじめ、実効性ある手法への転換が求められている・・
●國土典宏 国立国際医療研究センター理事長
コロナ禍において・・一番負担がかかったのは看護職・・看護職の待遇・・救急医療への負荷の軽減についてぜひ御検討いただきたい・・
日本の医療のIT化の遅れ・・医療データを活用することが、結局は医療経済的にも有利・・
●高久玲音 一橋大学経済学研究科准教授
日本はパッチワークのような、寄せ木細工のような医療保険制度・・保険料の非常に低い企業が温存されたまま・・
納得感を高めて、払う人の満足感を高めるような社会保障改革・・
●田辺国昭 国立社会保障・人口問題研究所所長
医療・介護制度は、そのリスクを分散する・・一人一人の生活はもちろん、社会全体の安定にも欠かせない・・
サービスや給付面・負担面にも国民の納得と信頼を得ることが必要・・
●土居丈朗 慶應義塾大学経済学部教授
給付と負担の予見可能性を高めることで将来不安を解消して、現役世代の負担軽減と手取り所得の増加をもたらす・・社会保障と財政の持続可能性を高めるような制度改革を行うことが重要・・
●沼尾波子 東洋大学国際学部国際地域学科教授
持続可能な地域づくり・・地域に安心して住み続ける、あるいは働き続けることができる環境・・対人サービスをはじめとする社会保障、年金といった所得保障は大変重要・・
地域の様々な専門職、コミュニティー、自治体がきちんと連携したり、情報共有しながら地域共生社会をつくっていくという仕組み・・
●水島郁子 大阪大学理事・副学長
働き方に中立的な社会保障や税制、勤労者皆保険の実現・・
未来社会に向けた検討、すなわち雇用を軸としない社会保障に向けた展望や検討も必要・・
●横山泉 一橋大学大学院経済学研究科准教授
子育てについての社会保障の権利性を高める・・男性の育児休業の取得促進や病児保育支援、フリーランスの保育利用の円滑化など・・
生活保護に・・就業調整が発生・・配偶者控除や在職老齢年金も含め、就労を阻害する要因を見直していくべき・・
最後に、岸田内閣総理大臣から締めくくり発言がありました。
「公的価格の在り方を見直し、看護・介護・保育・幼稚園などの現場で働く方々の収入を引き上げていくこと、また、子供から子育て世代、お年寄りまで、誰もが安心できる全世代型の社会保障を構築していくことは、私の掲げる分配戦略の大きな柱です。
中でも、看護・介護・保育・幼稚園などの現場で働く方々の収入の引上げは、最優先の課題です。その第一歩として、民間部門における春闘に向けた賃上げの議論に先んじて、今回の経済対策において、必要な措置を行い、前倒しで引上げを実施いたします。公的価格評価検討委員会においては、その後の更なる引上げに向けて、各制度における公的価格の制度の比較、処遇改善につながる制度の見直し、処遇改善目標などを議論し、安定財源の確保と併せた道筋を考えていただき、年末までに中間整理を取りまとめていただきますようお願いを申し上げます。
また、全世代型社会保障の実現に向けては、どんな働き方をしても安心できる勤労者皆保険の実現や、効率的で、質が高く、持続可能な医療提供体制の実現など、課題は山積しています。全世代型社会保障構築会議においては、人生100年時代にふさわしい、全ての方が支え合う、持続可能な、全世代型社会保障制度の構築に向け、御議論いただき、それも踏まえ、取組を前に進めてまいります。」
岸田総理のご発言の中にもありましたが、全世代型社会保障構築会議の下に、公的価格の在り方を検討するため、公的価格評価検討委員会が設置されました。同委員会については、次回ご紹介する予定です。