Ando Weekly 2022.4.17
「看護職」とは、保健師、助産師、看護師、准看護師を指します。保健・医療・福祉の幅広い分野で人々に寄り添い、健康を守っています。
政府は2021年11月19日に閣議決定した「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」の中で、「分配戦略~安心と成長を呼ぶ『人』への投資の強化~」の一つとして、看護職に対する賃上げを掲げました。以下、引用です。
「看護については、まずは、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として、段階的に収入を3%程度引き上げていくこととし、収入を1%程度(月額4,000円)引き上げるための措置を、来年2月から前倒しで実施した上で、来年10月以降の更なる対応について、令和4年度予算編成過程において検討し、必要な措置を講ずる。」
〇2022年2月~9月
「看護職員等処遇改善事業補助金」として令和3年度補正予算215.6億円が計上されました。
●対象期間:2022年2月~9月の賃金引上げ分
●補助金額:対象医療機関の看護職員(常勤換算)1人当たり月額平均4,000円の賃金引上げに相当する額
※4,000円の賃金引上げに伴う社会保険料の事業主負担の増加分も含む
●対象となる医療機関:以下の全ての要件を満たす医療機関
✔ 地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関であること:一定の救急医療を担う医療機関(救急医療管理加算を算定する救急搬送件数200台/年以上の医療機関及び三次救急を担う医療機関)
✔ 2022年2・3月分(2021年度中)から実際に賃上げを行っていること (医療機関は都道府県に賃上げを実施した旨の用紙を提出。メール等での提 出も可能。)。なお、2022年2月分の支給に間に合わない場合は、3月に一時金等により支給することを可能とする。
✔2022年4月分以降は、賃上げ効果の継続に資するよう、補助額の2/3以上をベースアップ等(基本給又は決まって毎月支払われる手当による賃金改善)に使用すること。なお、就業規則(賃金規程)改正に一定の時間を要することを考慮し、2022年2・3月分は一時金による支給を可能とする。
●賃金改善の対象となる職種
✔ 看護職員(看護師、准看護師、保健師、助産師)
✔ 医療機関の判断により、看護補助者、理学療法士・作業療法士等のコメディカルの賃金改善に充てることが可能
〇2022年10月~
「2022年度診療報酬改定」において、10月以降の処遇改善が明示されました。
「地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に、10月以降収入を3%程度(月額平均12,000円相当)引き上げるための処遇改善の仕組みを創設する。これらの処遇改善に当たっては、介護・障害福祉の処遇改善加算の仕組みを参考に、予算措置が確実に賃金に反映されるよう、適切な担保措置を講じることとする。」
医療現場ではすでに処遇改善が始まっていますが、特に支給対象の設定について対応に差が出ているようです。たとえば国立大学病院長会議の大学病院を対象とした調査をみると下表の通りで、約半数が看護職員に限定する一方で、病院の持ち出しにより補助金対象外の薬剤師にまで支給する病院も一定数存在しています。
支給対象 |
病院数 |
看護職員に限定 |
22病院 |
国が認めるコメディカルまで拡大 |
13病院 |
国が対象外とする薬剤師まで拡大 |
8病院 |
日本病院団体協議会は2月8日、「新型コロナウィルス感染症にチーム医療で対応してすべての職種が関わっている」「医療経済実態調査における一般病院全体の薬剤師の平均給与(月換算)は45.8万円であり看護職員の42.2万円と比較して金額に大きな差はない」ことから、賃金改善の対象となる職種に薬剤師も加えることを要望しています。
今回の看護師等処遇改善は頑張っている人への投資として首肯できる政策ですが、私は次の3点を提言したいと思います。
提言1 コロナ医療に従事している看護師は救急搬送件数200台以上・三次救急以外にも、一般の急性期や回復期、慢性期、診療所、老健等で日々頑張っており、そうした方々も処遇改善の対象に加える。 提言2 将来的にも処遇改善が続くという現場の期待を裏切らないように、恒久的な財源に基づく予算措置を講ずる。 提言3 コロナ医療に関わる多職種間で不公平感が出ないように制度設計を見直していく。 |
すでに中医協では10月施行を見据え、診療報酬による処遇改善の制度設計の議論がスタートしています。公的価格評価検討委員会においても、医療・介護等の処遇改善に向けた「費用の見える化」の議論が本格化しており、引き続き、注目していきたいと思います。
【ご参考】公的価格評価検討委員会・中間整理(2021年12月21日)
「こうした処遇改善を行うに当たっては、全てを国民の負担に回すのではなく、既存予算の見直しや高齢化に伴って増加する医療・介護費の中での分配のあり方などを含め、幅広く検討を行うべきである。従来は、前述のとおり、主に財政措置等を財源として処遇改善を進めてきた。今後は、更なる財政措置を講じる前に、医療や介護、保育・幼児教育などの分野において、国民の保険料や税金が効率的に使用され、一部の職種や事業者だけでなく、現場で働く方々に広く行き渡るようになっているかどうか、費用の使途の見える化を通じた透明性の向上が必要である。また、デジタルやICT技術、ロボットの活用により、現場で働く方々の負担軽減と業務の効率化を進めていくことも必要である。本委員会は、こうした処遇改善に向けた政策手法を実現する観点から、それぞれの分野における費用の見える化やデジタル等の活用に向けた課題等について検討し、来夏までに方向性を整理することとする。」