診療所が高いのではなく、病院の収益率が低すぎる
財務省は9月27日の財政制度等審議会において、1受診あたりの医療費(医科診療所・入院外)が2019年~2022年は年率+4.3%と「近年の物価上昇率を超えた水準で急増している」と指摘しました。
ただ、厚生労働省が同日の中医協総会に提出した資料によれば、2022年度の1日当たり医療費にはコロナ特例分3,000円が含まれており、それを除くと2019年~2022年の増加は年率+3.1%と2022年度の消費者物価指数+3.0%程度にとどまっています。
しかも、コロナ禍の医療現場では、発熱外来専用のブースを増設したり、ワクチン接種に係るスタッフを追加雇用したり、コロナ特例分の診療報酬ではとてもカバーしきれないコストがかかったというのが実情で、財務省の示すデータは現場感覚からは大きく乖離したものと言わざるを得ません。
さらに財務省は同じ資料で、「診療所の収益率は構造的に病院よりも高い」と問題提起しました。
この点に関して私は、「診療所が高いのではなく、病院の収益率が低すぎる」ということを強調しておきたいと思います。私が複数の医療機関を経営する「肌感覚」で言えば、医療機関が医療の質確保に向けた再投資をしていくための「適正利益水準」(経常利益ベース)は、病院で5~10%程度、経営規模の小さな診療所では最低でも15~20%は必要だと考えています。
われわれはコロナ危機を経験し、医療には「余裕」が必要であることを痛感しました。識者の方々からのご意見も
⚫︎「コロナ感染症が起きてみると、医療提供体制はある程度余裕をもった形でないと有事に備えられないということが分かりました」
(武田俊彦元厚生労働省医政局長『コミュニティ』(第一生命財団)165 号)、
⚫︎「感染症が国内で拡大したときに備えて、医療の冗長性(同じ予備機能が複数あること)を確保することの重要性を、私たちは身にしみて感じました」
(河野太郎衆議院議員『日本を前に進める』PHP新書)、
⚫︎「病床の稼働率が今70%程度だったとすれば、今回のコロナの経験から、一般病床を感染症が起きた時に転用する備えをしておけば、なんとかなる」
(相澤孝夫日本病院会会長『社会保険旬報』2021年9月1日号)
等、日本の医療を守るには病院経営にある程度の余裕(それを可能にする診療報酬)が不可欠であると述べられています。
コロナ禍に対応する医療提供体制構築のために多額の公費が投入されたことは事実であり、その成果については十分に検証することが必要です。
ただ、そもそも地域医療を堅持するために必要な医療機関の「適正利益水準」の議論は、それとは別に行うべきテーマです。
私のライフワークでもあり、今後も研究を続けていきたいと思います。