Ando Weekly 2021.12.5

財政制度等審議会とは、国の財政にかかわる重要な事項について調査・審議することを目的とする、財務省の諮問機関です。財政制度、国家公務員共済組合、財政投融資、たばこ事業等、国有財産の5つの分科会があります。

財政制度等審議会・財政制度分科会は11月8日、社会保障について議論しました。その中で下図を示し、医療機関はマクロとして令和2年度に概算医療費の対前年度減少を補う以上の補助金収入を享受しており、令和3年度については、足元の実績から推計した医療費の見込みに、前年度繰り越し分も含め予算措置されている補助金収入を足した計数は47兆円と見込まれ、医療機関の経営実態は近年になく好調であることが窺える」「診療報酬(本体)のマイナス改定を続けることなくして医療費の適正化は到底図れない」との見解を述べました。

これに対しては、医療関係者から、「補助金がなければ赤字の状態である。診療報酬で経営が成り立つようにしなくてはならず、そのためにもプラス改定は必須である」(日本医師会)との反論がなされています。

コロナ関係補助金はあくまで「新型コロナウイルス」のための資金と考えるべきですので、それを除いた「通常医療」の医療費の動きを考察してみます。
まず、2019年から2020年にかけての減少要因を見てみます。厚生労働省が発表している「医療費の動向」により、医療費を受診日数×単価に分解したのが下図ですが、入院、外来とも、医療費減少の要因は受診延日数の減少であり、一方で1日当たり医療費は前年比増加しています。

受診延日数

(億日)

1日当たり医療費

(円)

医療費

(兆円)

入院

2019年度

4.7

37,890

17.6

2020年度

4.4

38,876

17.0

増減率

▲5.8%

+2.6%

▲3.4%

外来

2019年度

16.1

9,206

14.9

2020年度

14.5

9,799

14.2

増減率

▲10.1%

+6.4%

▲4.4%

この数字だけで断定はできませんが、コロナ禍において、症状が軽い患者で受診控えが起き、症状が重いケースに受診が偏ったために1日当たり医療費が増加したと考えられます。健診や内視鏡検査等を先延ばしにする動きも顕著でした。
2020年度の医療現場を振り返ってみても、何度も押し寄せるコロナ感染症の波の中で、各医療機関は予定入院や予定手術を延期せざるを得ないという状況がありました。
次に、2021年の医療費は、たしかに財務省の推計では2020年の42.2兆円から44.7兆円へと急回復しているように見えます。ただ、これは、上記のように2020年に延期されたものが反動で戻っているだけであり、2020年と2021年を均してみれば年間医療費は43.45兆円となり、2019年からほぼ横ばいで推移していることが分かります。

中央社会保険医療協議会、いわゆる中医協で2022年度診療報酬改定の議論が終盤を迎えつつあります。財務省からの見解は診療報酬の改定率の決定に影響を与えるものですが、コロナ感染症の診療に使われる「補助金」と通常医療に係る「医療費」を混同しているうえ、医療費に関しても2019年から2021年にかけての増減要因を必ずしも正確に捉えていないようです。引き続き、医療現場と医療政策をつなぐ要として、診療報酬改定を巡る動きに注視していきたいと思います。