Ando Weekly 2022.6.12

救急医療の「東京ルール」では、救急患者が迅速に医療を受けられるよう、地域の救急医療機関がお互いに協力・連携して救急患者を受け入れます。救急隊の医療機関選定において搬送先が決定しない場合に、救急隊と並行して受入先の調整を行う医療機関「地域救急医療センター」が整備されています。さらに地域救急医療センターが行う地域内の調整では患者受入が困難な場合には、東京消防庁に配置された「救急患者受入コーディネーター」が東京都全域で調整を行います。

新型コロナウイルス感染症の流行によって、わが国の医療体制の脆弱性が露呈しましたが、とりわけ救急医療の現場で顕著です。

下表は、東京都における救急搬送および東京ルールの運用状況を見たものです。

2018年

2019年

2020年

2021年

2021.4

~2022.3

救急搬送人員

726,428

731,900

625,639

630,257

656,907

東京ルール

発生件数

7,101

9,264

15,355

22,748

31,269

発生割合

0.98%

1.27%

2.45%

3.61%

4.76%

圏域内受入率

86.1%

85.5%

81.4%

78.0%

69.9%

※東京ルールの数字は、新型コロナ疑い救急患者を除く

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う衛生意識の向上や不要不急の外出自粛といった国民の行動変容により、急病や交通事故、負傷等が減り、救急搬送人員全体は減少傾向にあります。

一方、東京ルールの発生件数は、年率5割前後のペースで急増、ここ1年間(2021年4月~2022年3月)は3万件を超え、救急搬送全体に占める割合も5%近くに上昇しています。

見逃せないのが東京ルール事案の圏域内受入率の推移で、新型コロナ前は85%前後あった受入率が直近で70%を割り込むレベルまで低下しています。かねてより東京都医師会副会長の猪口正孝先生が指摘されるように、高齢者が地域の病院で受け入れを拒否され、少し離れた急性期病院に入院した結果、コミュニティに戻るチャンスがなくなってしまう、いわゆる“さまよえる老人”が社会問題となっていましたが、足許でますます深刻化しているのです。

こうした中、消防救急車の負担軽減という観点から期待されるのが、病院が保有する救急車(病院救急車)の活用です。

何度かご紹介しましたが、私が南多摩病院を経営している東京都八王子市では、病院救急車が活躍しています。救急搬送される高齢者は軽症であっても、認知症を持つ方の肺炎や骨折、糖尿病患者の尿路感染症等、受け入れ病院がなかなか決まらないという問題があります。そこで2014年12月から、南多摩病院に病院救急車を配備し、自宅や施設で療養する高齢者が病院での治療が必要になったとき、かかりつけ医の出動要請に基づいて市内の病院に搬送する事業を八王子市医師会が始めました。病院救急車には医師や看護師、救急救命士が乗り込んで現地に向かい、かかりつけ医に指定された病院に患者を搬送します。2021年12月までの7年余りで3,075件の出動件数を記録しています。

このように活用が期待される病院救急車ですが、消防機関の救急自動車保有台数6,329台に比べ、救命救急センター及び2次3次医療機関が保有する病院救急車は1,088台にとどまっています。病院救急車のさらなる普及には人件費や車両整備費、燃料代等の運用コストに対する補助が必要だと考えています。

 

提言 消防救急車の負担軽減という政策的な観点から、病院救急車の活用に取り組む医療機関に対して、人件費や車両整備費、燃料代等の運用コストを補助する。