Ando Weekly 2022.2.13

「2040年問題」とは、2025年から2040年というわずか15年間において、現役人口が約1,000万人も減少するという問題を指します。

先週は、2040年問題を考える上で、全日本病院協会が主張する「医療保険制度」のあり方を解説しました。今週は、もう一つの柱の「医療提供体制」について、全日本病院協会が提唱する地域包括ヘルスケアシステムをご紹介します。

わが国の最近の医療介護政策は、いわゆる団塊の世代のすべてが75歳以上になる2025年をいかに乗り越えるかを至上命題としてきました。その際に政策の二大柱となったのが地域医療構想地域包括ケアシステムであり、簡単に内容を振り返ってみたいと思います。

〇地域医療構想

まず、将来人口推計をもとに2025年に必要となる病床数(病床の必要量)を4つの医療機能(下表)ごとに推計、地域医療構想計画を策定します。

次に、地域医療構想計画の実現に向けて、地域の実情に応じた課題抽出や施策を地域の関係者で検討し、合意していきます。そのための「協議の場」として、二次医療圏(入院医療が完結する範囲で都道府県を複数に分割)をベースに設定された「構想区域」ごとに「地域医療構想調整会議」を開催、関係者の協議を通じて、地域医療構想を達成するための協議が行われています。

地域医療構想は当初、疾病別医療需要も考慮して提供体制を大幅に再構築するはずでしたが、その具現化は大幅に遅れており、従来の医療提供体制の修正にとどまっているのが実情です。

〇地域包括ケアシステム

地域包括ケアの概念は、広島県公立みつぎ病院の山口昇先生が1970年代に「保健・医療・介護・福祉の連携、統合」として提唱したのが嚆矢と言われています。社会保障政策上初めて本格的に登場するのは、地域包括ケア研究会の2009年報告書で、「ニーズに応じた住宅が提供されることを前提とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみならず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供されるような地域での体制」と定義されました。そして法律上、2013年8月の「社会保障制度改革国民会議報告書」を受けて制定された「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」において、「地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制」と規定されたのです。

地域包括ケア研究会での議論は進化し、いわゆる「植木鉢」理論として結実しました。

「すまいとすまい方」を地域での生活の基盤をなす「植木鉢」に例えています。各住民が生活を構築するためのベースとなる「土」が「介護予防・生活支援」で植木鉢に満たされます。栄養分を含んだ土があって初めて、専門職の提供する「医療」「介護」「保健・福祉」といった「葉」が機能を発揮します。そして、これらの植木鉢と土、葉は「本人の選択と本人・家族の心構え」という「皿」の上に成り立っています。

「地域医療構想」と「地域包括ケアシステム」は、前者が都道府県二次医療圏、後者が市町村を行政管轄区分とする上、厚労省の所管部署も異なるため、整合性や連携についての議論に欠けており、理想的な医療・介護提供体制構築を困難なものとしている、と全日本病院協会は考えています。

全日本病院協会は、2040年を迎えるに際して、次のような取り組みが必要だと主張しています。

●現在の二次医療圏は日常生活圏と乖離しており、地域の主要医療機関を中心にアクセス状況を踏まえ提供体制を考える必要がある。人口推移や高齢化率に加え、地域の産業構造等から一定の生活圏で地域特性に合致した医療・介護・高齢者の住まい・生活支援等を一体的に検討すべきである。

●医療を中心に介護福祉等の提供を一体的に考える「地域包括ヘルスケアシステム」として事業モデルを作成し、関連事業所間での協議のもとに各圏域の制度設計をし直す。

医療保険・介護保険の同時利用や報酬改定時期・各種政府調査実施時期の統一を図る。

●都道府県は、新しい圏域ごとに既存の医療・介護・福祉機能の十分な再調査を行い、必要な財政支援による医療・介護・福祉提供者の統廃合・集約化・連携等を主導し、医療計画・介護保険事業計画作成時に各自治体を指導するなど全体の統括を行うべき。

全日本病院協会・病院のあり方委員会では今後、地域包括ヘルスケアシステムの進捗の評価に関するインディケータについて、議論を深めていく予定です。公表できるものができましたら、ご紹介したいと思います。